【書評】J.J.サクライ 現代の量子力学(上)
表題通り、Jサクの書評をしていきます。
付録を除いた目次は次の通り。
目次
第1章 基礎概念
1.1 シュテルン-ゲルラッハの実験
1.2 ケット,ブラ および演算子
1.3 基底ケットと行列表現
1.4 測定,観測可能量および不確定関係
1.5 基底の変更
1.6 位置,運動量および平行移動
1.7 位置空間および運動量空間における波動関数
第2章 量子ダイナミックス
2.1 時間発展とシュレーディンガー方程式
2.3 調和振動子
2.7 ポテンシャルとゲージ変換
第3章 角運動量の理論
3.1 回転と角運動量の交換関係
3.2 スピン1/2の系と有限回転
3.3 SO(3),SU(2)およびオイラーの回転
3.4 密度演算子ならびに純粋アンサンブルと混合アンサンブル
3.6 軌道角運動量
3.7 中心ポテンシャルに対するシュレーディンガー方程式
3.8 角運動量の合成
3.10 スピン相関の測定とベルの不等式
本稿では第1章と第2章を評する。この二つの章に絞る理由は簡単で、この二つの章がJサクを特徴付ける構成をしていると思うからである。それを一言で表すと「手作りの量子力学」というふうになるだろうか。ぼくがこの教科書を大好きな理由がこれである。教育的で理にかなっており、何より読んでいて楽しい。
書評、というか感想文
第1章,第2章では、 量子力学以前の力学や電磁気学(いわゆる古典物理)では説明できない実験のうち、最も典型的なシュテルン-ゲルラッハ型の実験の考察と、経験事実を手掛かりに、量子力学を"組み立てて"いく。
これが「手作りの量子力学」と表した理由だ。いくつか経験事実として認めなければならない点はあるが、どのようなアプローチにせよ、物理学の理論である以上、必ず経験事実を元に理論を組み立てるので、問題ない。
このアプローチが優れていると考える理由を、典型的な量子力学の教科書と比較しながら説明する。
よくある量子力学の教科書は、次のように進んでいく
古典物理の限界を語るために前期量子論をあつかい(くどい)、それまでの話とは関係なく波動関数とシュレーディンガー方程式を与えられ(やれやれ)、よく分からないまま問題を解かされる。そのような教科書が多い印象である。混乱するだけで分かった気になれない。
しかし本書はシュテルン-ゲルラッハ型の実験一つを題材に、量子力学を組み立てていく。シュレーディンガー方程式も天から与えられたものではなく、J.J.サクライに手を引かれ、自分の手で導き出すことができる。素晴らしいことこの上ない。量子力学がどういった枠組みをしているのか、それが良く分かる。その点が非常に優れていると思う。
ぼくがこの本について伝えたいことはだいたいこんな感じである。
書評に対するご意見、ご感想などあれば、遠慮なくコメント等くださいませ。
ではまた、どこかでお会いいたしましょう。